母親が亡くなり、聖澤和志は病弱な妹・美結と二人で生きていかなくてはならなくなった。
身寄りも無く、母の死とともに住処を失った兄妹は、葬式で「住む場所も働き場所も世話してやる」と声を掛けてきた怪しい男に頼るしかなかった。
男から伝えられた住所を尋ねると、今にも崩れそうなアパートだった。
アパートの中に入ると部屋から物音がした。
声をかけると怒声を浴びせられたが、どうやらあの男のようだ。
話をすると和志達だとわかったらしく、部屋に招き入れられた。
そこにはあの男と一人の女性が跪いていた。
竜次と名乗る男は下半身を剥き出しにし、女性も胸を露にして口淫の最中だった。
咄嗟に美結を扉の外に出し、和志は話をしようとするが、竜次は聞かずに翔子と呼ぶその女性に続けさせて、和志にセックスを見せつけた。
一通り行為が終わると、竜次は二人を隣の部屋に連れて行った。
さっきの部屋と同じ薄暗く狭い四畳半。
ここがこれから兄妹が暮らす部屋となるのだ。
じめっとしてかび臭い匂いがするし、畳にも埃が積もっている。しかし、わがままは言えない身だ。
部屋の軽い掃除を済ませ、竜次が紹介してくれたバイト先に向かう。
バイト先は普通のコンビニだった。竜次の雰囲気からもっといかがわしい仕事と思っていたが、和志はちょっと安心した。
バイト先の先輩、市ヶ谷瞳は明るくて優しい女性だった。家庭の事情を話すと休憩時間を使って妹の様子を見に行けるようにしてくれた。
バイトの休憩中に、美結の様子を見にアパートに戻ると、アパートの廊下で隣人の翔子と会った。
さっきは竜次と一緒だったが、状況も状況で挨拶していなかった。
和志が自己紹介をすると翔子は驚いた表情をしていたが、何か事情があるのだろうか?
それにしても、竜次も翔子も、なんだか怪しい、あまり関わり合いたくないが…
和志が部屋に戻ると美結が苦しそうにしていた。バイトに行っている最中に掃除をして、体調が悪化したようだ。
今日は無理をさせてしまった。
竜次があとで医者を紹介してくれると言っていたが、今はそんな状況ではない。
せめて薬でも飲ませないと美結が苦しそうだ。
あまり関わりたくないが、隣人の翔子に医者を教えてもらうことにした。
翔子からは紹介された医者は、以前大きな病院に勤めていた名医だと紹介されたが、古く雑然とした診療所からはそんな雰囲気は感じられなかった。
佐戸渡という医者を美結は嫌がっているようだが、しかし今は診察してもらうしかない。
一通り診察を受けて、病状の説明を聞くがはっきりしない答えだ。
でも、とりあえずの薬は買うことができた。
部屋に戻り美結に薬を飲ませて休ませたあと、バイトに戻った。
初日から長い休憩時間を取らせてもらってしまったが、瞳は明るくフォローしてくれて助かった。
瞳はバイトではあるけれどオーナーから色々と任されているらしい。
明るくて頼りになる先輩でよかった。
部屋に戻ると、薬が効いたらしく美結が起きてきた。しかし夜は冷えるしこの部屋は暖房が無い。
布団も一組しかないので一緒の布団にくるまって話をした。
そのうち美結は和志に寄り添うようにすやすやと眠ってしまった。
伝わるぬくもりとともに兄妹を超えた別の感情が湧き起こってくる。
この気持ち、衝動は二人だけの生活を脅かす存在だ。封じ込め、誰にも知られてはならないものなのだ。
ある日、バイトの休憩で家からバイトに戻ろうとすると、見覚えのある少女に出会った。
美結が休んでいるときにプリントを持ってきてくれていた、藤堂仁奈だった。
アパートに引っ越してきてから会っていなかったが、探して来てくれたようだ。
あまりのボロさに驚いていたが、美結にプリントを届けてお見舞いをしてくれた。
責任感の強い友達だ。
美結が元気になってはやく学校にいけるようになるといいいのだが・・・
今日は銭湯に行く日だ。美結も楽しみにしている。バイトも早めにあがれるように瞳さんにお願いしたら、気を利かせてくれてた。
早く帰ってきたことを美結は喜んでくれた。銭湯に向かって歩き出すとすぐに美結が体を寄せてきていろいろ話しながら歩いた。こうしていると他人から見たら恋人のようだ。
銭湯につくと当然男女に分かれる。一緒に入れないのは寂しいとか冗談を言い合いながら、それぞれの湯に入る。
一人風呂につかりながら、美結のことを考えた。
昔はよく風呂にいれてあげたな、大きくなったな…とか父親のみたいなことを考えてしまった。
でも、今は別の感情が芽生えてきている。美結の裸を意識してしまう…
ダメだ、母親がいない今、自分が父親のような存在として美結を育てていかなくてはならない。そんなこと想像したくも無いが、いつかきっと好きな人ができるだろう。
美結には普通に幸せになって欲しい。そうでなければ、俺はきっと後悔する。
そんなことを考えてたら長風呂になってしまった。美結が先に出て寒いところを待たせてしまうかも…。急いで上がることにした。
風呂から上がって銭湯の外に出たが、美結の姿が見えない。
すると女湯のほうがなんだか騒がしい、ひょっとして美結がーーー?
美結は風呂で湯あたりして倒れてしまった。
のぼせとおんぶのほどよい振動でゆらゆらが気持ちいいのか、俺の背中に美結は体を預けてくる。「ごめんなさい。お兄ちゃん」と謝ってくるが、俺は悪い気分ではなかった。小さく軽い体を背負いながら、兄としての責任感を感じ、自分の中の欲望に胸をしめつけられた。そんな背中で美結はいつのまにか寝息をたてはじめた。
家に帰って着替えさせるとまたすぐに美結は眠ってしまった。
夜、うとうととしていると外から罵声が聞こえてきた。竜次の声だ。
廊下を覗うと、竜次が翔子さんから金を巻き上げ暴力をふるっている。
竜次が去って行くのを待って廊下に座り込んでいる翔子さんを介抱する。謝る翔子さんをなだめながら部屋に送り届ける。
部屋に戻ると美結が不安そうな顔で起きていた。「大丈夫だ」と言って聞かせ、眠らせた。
二人だけの生活を望んだものの、やはりこの環境はよくない。もっと稼いで別のところに引っ越そう。それまでの辛抱だ!
そう思いながら眠りについた。
翌朝目覚めると、美結が咳をしていた。昨日の湯あたりで風邪を引いてしまったようだ。
医者に行こうと行ったが、大丈夫だというので、薬だけもらいにいくことにした。
佐戸渡診療所に行って風邪薬を出してもらうついでに、美結の病気のことや薬のことについて聞いた。
劣悪な環境、高い薬代…これからのことを考えるとため息しが出てこない。
美結と一緒に過ごす時間は減ってしまうが、バイトを増やすしかない。
家に戻り美結に薬をのませて、バイトに向かう。
途中翔子さんに出会う。竜次に呼ばれて出かけるらしい。
昨晩のこともあって、心配だが、「あの人には私が必要だから」と言う。
あまり関わってはいけないと思って先を急ぐことにした。
バイト先で瞳さんにシフトを増やせないか相談する。いろいろ心配してくれたが、オーナーに聞いてくれることになった。それよりもそんなに思われている妹に興味をもったようだ。
突然バイト先に妹の友達の仁奈が来た。瞳さんは妹と勘違いするが、早々に訂正した。
妹の見舞いに来る途中、たまたまトイレに立ち寄っただけらしい。瞳さんが気を遣ってくれて、家まで一緒につれていってあげれば?と言うが仁奈は大丈夫だと一人で行ってしまった。
休憩で家に戻ると美結と仁奈が会話をしていた。俺と入れ替わるように仁奈は帰っていった。
美結は風邪なので今日は風呂はやめて体を拭いて着替えるだけにした。背中を拭いて欲しいと頼まれたので、拭きながら話をした。仁奈の事をどう思うか聞かれたり、バイトのシフトを増やすと言うと自分も働くと言いだしたり、学校にはやく行けるようにと言えば、美結は何か言い淀んだ雰囲気になる。美結もいろいろ感じ、考えているんだろう。
モヤモヤした感覚をかかえながらもそれ以上聞くのはやめた。
そんな最中、廊下の方から物が倒れるような派手な音が聞こえてきた。美結に服を着させて寝るように言って、廊下に出た。
酔っ払った翔子さんが倒れ込んでいた。
翔子さんの部屋に連れて行くと、服を着替え始めたので、出て行こうとするが、引き留められ、酒のにおいのする甘い吐息を吹きかけて迫ってきた。しかし俺は翔子さんを押しとどめ部屋を出ることにした。
こんなやりとりを美結に聞かせてはいけない。
部屋にもどると美結が心配そうに起きていた。しかし翔子さんを部屋に送っただけだと話し、休ませた。俺も悶々と考えながらも眠ることにした。
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